◆「ノーレイティング」と「360度フィードバック(360度評価)」
人事担当者の皆さまは、最近「ノーレイティング」という言葉を耳にされているのではありませんか。
または、GEやグーグル、ゴールドマンサックスなどの外資系企業が「これまでの人事評価をやめた」といった記事をご覧になったことがあるのではないでしょうか?
「ノーレイティング」とはいったいどのようなことなのでしょうか。
“日本の人事部”の人事辞典では、以下のように解説されています。
年度単位の業績に応じて社員をS、A、B、C、Dなどとランク付けする年次評価(レイティング)を廃止すること。
また、そのような人事評価の新しい動きを意味する言葉です。
年次評価は従来の目標管理・評価制度の根幹を成すものですが、パフォーマンスの向上につながっていないなどの理由から、近年、こうしたランク付けの廃止に踏み切る企業が欧米を中心に増えてきました。
「ノーレイティング」の広がりは、従来の目標管理・評価プロセスそのものの行き詰まりを背景に、それを突破するパフォーマンスマネジメント変革のグローバルトレンドとして認知されつつあります。
上記の外資系企業で導入されたのを皮切りに、先駆的な取り組みに関心の高い日本企業でも少なからず導入を検討されているようです。
いろいろなところで言われていますのでご存知の方も少なくないと思いますが、誤解をされておられる方も多いようですのでご説明しますと、
「レイティング」とは、期末の評価によって社員をランク付けすることであり、「ノーレイティング」になったからといって、「評価を行わなくてよい」ということにはならないのです。
期末にまとめて(または一度だけ)部下の評価を行うのではなく、日々の業務において気づいたことはリアルタイムに部下にフィードバックすることで、部下のパフォーマンスを向上させるしくみです。
従来の評価制度では、期中のパフォーマンスが好ましくない状態であっても、それを評価するのは期末であり、本人に伝えるのは評価結果のフィードバック面談になってしまいます。
しかし、これでは、パフォーマンス改善のタイミングが遅れてしまうために、組織力向上にとって好ましいとは言えません。
(注:従来の評価制度、例えば目標管理であっても、期末にしかフィードバックできないというわけではありません。期中の気づいた時に部下に対してアドバイスを送ることも可能ですし、そちらの方が本質的な運用なのですが、実際は期末にまとめてフィードバックするやり方をされているケースが多いです)
そのため、経営者や経営的視点をもった人事責任者の間では、興味深いテーマとして関心が寄せられているのです。
先日訪問した人事担当者からは、「社長から『ウチの会社にノーレイティングを導入できないのか』と急に投げかけられて困っているんですよ」というお話もお聞きしました。
ノーレイティングの人と組織のパフォーマンスを最大化するそもそもの目的をしっかりと果たそうとすると、
- 成果や短中期の成長につながる課題を重要度高く選ぶこと(重要性)
- できるだけ見続けて、情報を集めて、評価をすること(日常性)
- 集めた情報をフィードバックし有益な対話の時間を持つこと(納得性)
が重要になってきます。
さて、みなさんの会社では、すぐにノーレイティングを導入できそうでしょうか?
ノーレイティングを正しく導入・運用して、人と組織のパフォーマンスを最大化し、業績向上に寄与させられそうでしょうか?
一部の企業の方を除いては、現段階ではなかなかイメージしづらい…というのが正直なところだと思います。
とはいえ、ノーレイティングの背景にある考え方は、人材育成や組織力強化(特に「OJT強化」)にとってとても重要なことです。
導入検討の有無にかかわらず全ての企業にとって理解しておいた方がよいことと思います。
そこで本コラムでは、ノーレイティング導入の是非についてではなく、360度フィードバックという手法を活用した「ノーレイティングへの移行準備の考え方」についてお伝えしたいと思います。
【360度フィードバックを活用した「ノーレイティングへの移行準備」の考え方】
①まずは、「ノーレイティングを機能させるための管理職のあるべき行動(つまりノーレイティングが実現した状態)」を設問することで大切な行動を意識させます。
例えば先述したこのような内容について、自社での職場課題を踏まえた“職場で取るべき具体的な行動”として設問にしていきます。
- 成果や短中期の成長につながる課題を重要度高く選ぶこと(重要性)
- できるだけ見続けて、情報を集めて、評価をすること(日常性)
- 集めた情報をフィードバックし有益な対話の時間を持つこと(納得性)
→ここから具体的な行動として設問へ
②作成した設問によって、360度フィードバックを実施します。
そのことで自社の管理職の「理想のノーレイティング行動」とただいま現在の行動との差異がわかります。
もちろん、最初は差異があっても構いません。
管理職本人が、「ノーレイティングのための行動とは何か」「自分はそのためには何が足りないか」を知ることが大切だからです。
③その上で、「理想のノーレイティング行動」への強化策を検討することとなります。
この場合、管理職個人に委ねる部分と、会社として研修などの打ち手が必要になる部分の両方が考えられます。
④また、この取り組みの中で、ノーレイティングという考え方自体、時期尚早という判断になるかもしれません。
⑤360度フィードバックは、定点観測的に継続実施することで、「ノーレイティング」で求められる理想の部下マネジメントの状態(部下の仕事ぶりを良く見て、リアルタイムにフィードバックすること)に近づいていきます。
いかがでしょうか。
ノーレイティングに限らず、360度フィードバックは「伝えたいメッセージを明確に伝え、施策を定着させる手法である」ことを知っていただきたくご紹介させていただきました。
ご関心をお持ちいただければ幸いです。